第9話 行政統制
一、 責任論争(行政の対議会責任の機能不全を如何に捉えるか)1940年代の議論
1、 フリードリッヒ…[1]専門知識と[2]民衆感情への応答性を通じて、行政官は行政責任を担わなければならない。(政治行政融合論の考え方)
[1]専門的知識への応答性
責任ある行政官は科学的に検証できる行動をとらなければならない。そして、それをチェックする者として「科学の仲間」たる同僚行政官の存在が想定されている。(機能的、客観的責任)
[2]民衆感情への応答性
本来ならば民衆感情は議会を経て行政に反映されるべきであるが、政策の量的質的拡大を前に議会が能力を減退させている今日、議会に民意集約機能は認められない。そこで、専門能力を永続的に保持している行政が直接民衆の感情をくみ取るべきである。(道徳的、政治的責任)
2、 ファイナー…[1]厳格な責任概念を前提に、[2]対議会主義の改善が第一義である。
[1]責任概念
責任とは、修正と処罰から成る。
[2]対議会主義の改善(フリードリッヒ批判)
○フリードリッヒによれば、彼の説く責任とは責任自体ではなくて、外からの処罰が伴わない責任の感覚に過ぎない。こうした責任の在り方は恣意的に判断できるので、専制に陥る危険をはらんでいる。
○対議会責任が機能不全に陥っているからといって、それを放棄するのは「桶ごと赤子を捨てる」ようなものである。制度(桶)が歪んだから民主政治(赤子)を捨てるようなことは出来ない。まず、本来の対議会責任を改善すべきであり、それを補完するものとして新しい責任を求めるべきなのである。ファイナリーは対議会責任を政治的責任、それ以外の責任を道徳的責任と呼び、政治的責任が不十分ならば、道徳的責任は悪用されると警告する。
二、 統制手段の類型
対議会責任が行政責任の基本だとしても、議会による統制を補う統制手段が多様化してきたのは事実である。そこで統制手段を類型化して整理する試みがなされることになる。その試みとしてはギルバートのものが著名であり、ギルバートのマトリックスと呼ばれている。
[1]外在的・制度的類型
議会による統制、内閣による統制、裁判所による統制、議会型オンブズマンの勧告
[2]内在的・制度的類型
大臣による統括、上司による指揮監督、内部・外部監査、行政型オンブズマンの勧告
[3]外在的・非制度的統制
審議会による勧告、部外専門家による批判、行政手続による聴聞、情報公開による開示請求、利益集団による陳情、マスメディアによる報道
[4]内在的・非制度的統制
公務員組合による批判、同僚公務員による批判
三、 オンブズマンと情報公開
1、 オンブズマン…独立の立場に立ち、国民や住民から行政に関する苦情を受付け、調査をし、勧告を行う。各国のオンブズマン制度の差異を確認しておかなければならない。
[1]スウェーデン
オンブズマン発祥の地である。彼の地では、国政調査権の不在、大臣責任の不在、裁判官並みの公務員の独立性といったことから、必要的にオンブズマンが生まれた。議会による統制の不在を補うのだから、オンブズマンは議会により任命され(議会型)、また国民からの苦情申立ては直接にオンブズマンに対してなされる(直接アクセス)。
[2]イギリスとフランス
○国会の同意を経て、行政がオンブズマンを任命する(行制型)。
○国民の苦情は議員を経て伝わる(間接アクセス)。
[3]川崎市
○行制型だが、直接アクセスである。
○諌早市、新潟市、沖縄県等でも導入される。
2、 情報公開
○報道機関の知る権利を認めるため、オンブズマンと同様、スウェーデンに起源がある。(1766年出版自由法)
○1951年フィンランド「公文書公開法」、1966年アメリカ「情報自由法」
○1999年、我国において「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」が可決され、2年以内の執行のための条件整備が進められている。2001年4月1日施行
○情報公開法は住民、国民から開示の請求があった場合、原則として開示しなければならないが、プライバシーに関する事項については適用除外を設けることが出来る。
○情報公開法の目的として国民の知る権利は明記されていない。