目からウロコの行政法入門 Part1
みなさんは、六法を持ってますか。法律を勉強する際には必ず必要なアイテムですから持ってない人は早めに購入して下さいね。ところで、六法とは憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法を指しますが、行政法はこの中に入っていないのです。行政法という科目は法律学の中では比較的マイナーな科目で、そのため僕の大学の行政法の先生なんかは、「六法に入れてもらえぬ行政法」といっていつも泣いていました(笑)。※1
それでは、行政法って何でしょう。一言で言えば、「行政に関する法」です。では、行政とは何か、行政とはどのように定義付けられるのか。これは非常に難しいのですが、歴史的、沿革的には国家権力というか、国家作用というか、まぁ、国家の行為から立法と、司法を除いたものが行政であるとされています(控除説)。どういうことかというと、もともと国家作用というか国家権力は一つなんです。例えば、中世のヨーロッパを考えてみて下さい。絶対君主が国家権力を持っていたのでずが、それでは人民の権利が侵害される、という訳で法律をつくる権利を国会に、裁判をする権利を裁判所にそれぞれ移してしまって、残ったのが君主の権利、すなわち執行権であり行政権だったわけです。だから、行政とは国家権力の中から立法と、司法を除いたものと定義されるわけです。
では、具体的に行政とはどういうものでしょうか。僕たちの生活のいろんなところに行政の存在を見て取ることができます。例えば、僕は朝、ラジオのタイマーで目覚めて、顔を洗い、レンジでチンした朝ご飯を食べながら、インターネットで天気予報を見ます。
ラジオはラジオ局が電波を飛ばしてそれをラジオが受信しているわけですが、電波の管理は郵政省が行っています。顔を洗う為の水は市の水道局がしています。レンジを動かす為の電気は通産省が元締めです。さらに天気予報は気象庁が行っていますし、「ひまわり」という気象衛星は宇宙開発事業団によって打ち上げられているのです。これら全てが立法でもなく、司法でもなく行政なんです。ホント多いでしょ。行政法とは、これら行政に関する法なんです。法律自体も多いんですよ。日本には約三万の法律があって、そのうちで実質的に効力があるものが1,500とも2,000ともいわれていますが、そのうちの4割ぐらいが行政法なんじゃないのかな。とてもじゃないけど多すぎるよね。でも心配しないで下さい。僕たちは行政法のすなわち、600から700もの法律の「共通項」を勉強するにすぎないのです。
じゃあ、共通項って何でしょう。それは学者の言葉です。行政法は憲法や民法というように法典がありません。六法を見て下さい。どこにも「行政法」という法律はないでしょ。そこで、それを学者が補っているのです。僕らは学者の言葉を学ぶのです。だから、行政法という科目は暗記科目といっていいでしょう。理論じゃないんですよ。民法みたいに。だから、覚えようとすることをサボると行政法は出来なくなります。逆に講義にしたがって言葉を覚えていけば行政法は楽勝です。
でも、学者の言葉(講学上の概念)だけじゃなく、条文も勉強してもらいますよ。といっても、行政代執行法(全6条)、国家賠償法(全6条)、行政不服審査法(全58条)、行政事件訴訟法(45条)、行政手続法(全38条)、それと内閣法や国家行政執行法、警察官職務執行法、地方自治法、国家公務員法等の一部です。だいたい全部で140条くらいかなぁ。1044条ある民法に比べたら、どうってことないでしょ。
まぁ、といっても学者の言葉を覚えるのが行政法の中心になるわけだけど、行政法学における講学上の概念って三つに分けられるんだよね。行政組織法、行政作用法それと行政救済法この三つ。
例えば、「行政」っていう新種の虫がいると想像して下さい。その虫の羽とか、触覚とか体毛とか、虫の構造を学ぶのが行政組織法。その虫がどういう動き方をするのか、僕ら国民にどんな影響を与えるのか、ということを学ぶのが行政作用法、その虫が僕らに噛み付いた時に僕ら国民はその虫を懲らしめることが出来るか、というのが行政救済法です。このイメージは大事ですよ。ちなみに行政作用法からの出題が一番多くて、次が行政救済法、行政組織法は全体の一割かそこらです。出題されるのは。
ちょっと話が脱線するけど、行政学というのは先程の三つの部分(行政救済法は行政統制に当たるかな)を社会学的観点から研究する学問だといえるんじゃないてしょうか。
次は、三つの部分について日常起こりうる具体例に則して説明していきたいと思います。
※1 高木光『ライブ行政法』初級編p4