第13話 マスコミ・世論
一、 世論と公衆
1、 世論(Public Opinion)
○世論とは「公共問題に対する人々の意見の中でも支配的なもの」を指すが、ここでいう「人々」とは「公衆」のことである。
○JJ・ルソーは意思決定は「一般意思」に基づくべきであると主張した時、「一般意思」と「集合意思」は対抗概念の関係にあった。
2、 公衆(The Public)
○公衆とは「世論の担い手」として政治社会成員一般を指す。
3、 公衆の資質
[1]公共問題すなわち政治問題に対する主体的積極的関心を持ちつづけていること。
[2]政治に関する意見を形成する材料となる情報収集への意欲。
[3]合理的判断の能力があること。その為には基礎知識の他に、「批判的な現実検証の能力」が必要。
[4]討論を志向する態度
※以上の条件を備えた公衆が世論を担うことによってはじめて世論の正当性が保証される。
※公衆の条件は近代市民社会の「市民」には該当しても、現代大衆社会の「大衆」には合致しない。むしろ、公衆の条件と大衆の実態は全てが正反対である。大衆社会の世論の問題性。
4、 現代の「公衆」=世論形成の脇役
大衆の中に含まれる現代の「公衆」は資質の点で市民に劣る。すなわち、現代の「公衆」は、いわゆる「オピニオン・リーダー」(ジャーナリスト、政治家、圧力団体リーダー、学者等)によってメディアを通じて呈示された意見のうち、同意できるものを選び、受け入れているという形で、現代の「公衆」における世論形成が図られるに過ぎないのである(世論形成の脇役・観客デモクラシー)。
5、 ステレオタイプ志向 W.リップマン『世論』
○大衆社会では人々は遠く離れた場所での出来事に関する情報をマス・メディアから得ることによって状況認識している。こうした中でマスメディアの膨大な情報の渦に巻き込まれると紋切り型の考え方(ステレオタイプ思考)に陥る。
○リップマンはこうしたステレオタイプ思考に翻弄された人々によって担われている世論の実態に強く疑義を呈した。
6、 コミュニケーションの2段階の流れ P.F.ラザースフェルド「エリー調査」
○現代社会のコミュニケーション・ネットワークには[1]マス・コミュニケーションの体系(社会全体のコミュニケーションの体系)と[2]パーソナル・コミュニケーションの体系(小集団のコミュニケーション体系)の2段階があり、両者が接続することによって現代社会のコミュニケーション・ネットワークが成立している前提に立つ。
○有権者はマスメディアの情報に直接反応するものではなく、普段、政治的情報をマスメディアからより多く入手している身近な有識者(教師、先輩、友人、上司、両親等)との人間的な面接的な接触(パーソナル・コミュニケーション)によって有権者は投票態度を決定していくと論じた。すなわち、マスメディアの影響力は間接的なものでしかないと解した。(コロンビア学派の代表的投票行動研究)
7、 現代世論形成過程の特徴
[1]世論形成はマスメディアへの依存度を増大させている。
[2]現代の原子化された個人が発言力を確保するには、まとまりをもって世論を「集団的組織化によって表出」させようとする。
[3]国家活動がありとあらゆる領域に広がる今日、あらゆる問題が政治的課題として取り上げられるので、世論の「対応領域の拡大」が見られる。
[4]公衆の資質が崩壊しており、世論における「非合理性の増大」が顕著である。
二、 マスメディアの意義と機能
1、 マスメディアの意義
[1]世論形成、[2]政策広報、[3]大衆の政治参加
※いずれを取ってもマス・デモクラシーの成立にマス・メディアの存在は不可欠である。
2、 マスメディアの機能
A 個人レベル
「政治的社会化=教育機能」個人に行動、思考の基準を与え、社会の規範を内面化する機能。それによって我々は何時、如何なる時にどのような行動を採るべきかについて共通の意識を形成する。
B 社会レベル
[1]「環境の監視」…社会の内外に生じた出来事等を伝達する。
[2]「社会の諸部分の調整」…個々の成員の要求を社会全体の意思決定に反映させ、あるいは逆に全体の決定を個々の成員に伝達することを通して社会の諸利益を調整する。
[3]「社会的遺産の世代的伝達」…社会の文化、伝統、社会規範等の社会的遺産を世代を超えて伝授し続けることによってこうした遺産を維持し、社会の存続に寄与する。
※以上がH.Dラズウェルの3機能である。
[4]「議題設定」=アジャンダ・セッティング…選挙時等、その時々の争点をマスメディアがキャンペーンをはるなどして設定する機能。
[5]「アナウンス効果」(アナウンスメント効果)…選挙での投票の際などに、選挙結果に対する予測や途中経過が伝わると投票態度を変える有権者が出てくる。
3、 マスメディアの逆機能
[1]情報の独占…一般国民のアクセス権が問題となる。 cf(第四の権力)、サンケイ新聞事件
[2]商業主義…不偏不党、公平中立と企業利益追求の矛盾
[3]麻酔的逆機能…あまりに多くの情報が送られると、情報の受け手である国民は情報の取捨選択が出来ず、結果的に情報の消化不良を起こし、かえって政治的無関心を助長する。