目からウロコの民法、法律行為
法律行為＝契約ということ
民法とは、主体としての自然人或いは法人が客体としての物、或いは権利を買ったり、売ったり、貸したり、借りたり、預かったり、預けたりすることを体系化しています。そんで、この「買ったり、売ったり、貸したり云々…」というのを法律行為というのですが、それだったら、みなさんは、「始めから、その売買契約や、賃貸借契約について教えてくれ。そっちの方が実生活に基づいているので、分かりやすいんちゃうか？」と疑問に思われるかもしれません。しかし、民法典はパンデクテン方式を採用していまして、始めに抽象概念に触れてから具体的な事象について整理するという形式になっている訳です。えーっと、このパンデクテン方式とは、どういうものかというと、例えば民法典の目次を見て下さい。民法第1編総則とあり、ここで民法全体の共通項（抽象概念）について振れています。次に第2編第1章物権総則という感じで、物権全体の共通項についての記述があります。同じように、第3編第1章債権総則、第2章第1節契約総則…という感じになっています。このパンデクテン方式は整理し易いという長所の一方で、抽象概念を先に勉強しなければならないという点で、みなさんのような初学者の理解を一層困難にするという短所を併せ持っています。※1
まぁ、法律行為とは、教科書には単独行為、契約、合同行為の三類型を指す旨の記述がありますが取り敢えず、法律行為＝契約という感じで理解しておいて下さい。
では、契約とは何なのか。契約というものを知らない人に法律行為を教えようとすることは、パソコンを知らない人にIT革命を教えようとするようなもので、順序が逆やな。まぁ、この国では「デスクトップってなんだ？」って側近に訊ねるような人が、IT革命を主導しようとしとるけど、ホンマ情けないですね※2。
えーっと、取り敢えず契約とは何なのか、一応常識的理解を確認しておくと、アパートを借りる→賃貸借契約、私鉄やJRに金を払って乗る→運送契約、車を購入するために銀行でマイカーローンを組む→消費貸借契約ってな感じですね。我々の日常の細部にいたるまで契約というものが存在するね。じゃあ、契約って何で必要なのか。約束と契約はどう違うのか、検討してみましょう。（これから、お話することは債権法の契約総論の部分を含みます。民法総則からは若干外れる場合があるので注意。）
契約と約束の違い
まぁ、大袈裟に問題提起をしたけど、単に約束しただけだったら、たとえ約束違反があっても国家は助けてくれない。だから、約束を相手に守ってもらうためには相手を説得するか、それでも聞いてもらえなければ、諦めるか、暴力に訴えるしかないよね。でも、そんな社会だと資本主義経済は発展しないでしょ。だから、契約ってのがあんねん。相手方が契約違反をすると、国家権力（司法権を担う裁判所）に訴えて、強制的に契約内容を実現することができる。例えば、100万円貸したのに返してくれない。そこで、訴えを提起すると、裁判所が「100万円支払え」っていう判決を書いてくれて、それでもなお相手が払わん場合には、相手の銀行預金を無理矢理とって来るとか、相手の財産を競売にかけて、そこから、100万円を強制的に払ってもらうことができる。まぁ、契約をしておくと、相手方も国家権力が怖いから、滅多なことでは契約を破らなくなるよね。道徳の力（約束を破ってはいけない）では取引社会を維持できないので、契約という法制度があるといえるでしょう。
でもね、契約と道徳がまるっきり無関係なわけではない。なんで、契約は守られなければならないかと言うと、まぁ「お前が自由意思に基づいて結んだんやから守れ!!」という感じ。これを私的自治といいます。絶対王政を打破した市民革命以来、我々は本来的に自由に行動できるわけですが、自由に行動したことによって発生した結果に対してはきちんと責任を取りなさい、ということです。
逆に言うと、自由意思に基づいて締結されていない契約は守らなくてOKだということ。話がちょっと外れるけど、錯誤や詐欺、強迫によって締結された契約は自由意思に基づいたものでないから守らなくてもOK。こういう感覚は非常に大事です。
契約を解剖する
例えば売買契約が成立するにおいては、売主の「売ります」という意思（申込）と、買主の「買います」という意思（承諾）が合致する必要がある。まぁ、契約は申込という意思表示と承諾という意思表示から成り立っているわけです。
では、例えば「Ｂがギターを売ってくれと言い、Ａが10万円なら売るよと応じ、それに対してＢがOKだ、と言った」場合、申込はどれかな。…売ってくれと言うだけでは、契約の重要な内容である価格が決まっておらず、相手が売ってやるよ、と言っただけでは契約は成立していない。この例では、Ａが10万円で売るよ、と言ったのが申込に当たるでしょう。
では、スーパーで買い物する場合を考えよう。店側が商品を店頭に並べ、値札を付けているという行為が申込で、買い物客が商品をかごに入れる行為が承諾になるね。だから、この時点で契約は成立しているわけだ。レジでお金を払うのは債務の履行に過ぎません。
申込と区別しなければならない概念に「申込の誘因」というものがある。例えばＡ店の店頭に「スタッフ募集!!委細面談。」と書かれた紙が貼ってあった場合。Ｂさんが「雇って下さい。」と言ったとする。これは承諾かな？違うよね。だって、面接で落ちるかもしれんやろ。この場合、Ｂさんの「雇って下さい。」という行為が申込で、面接の結果Ａ店が「雇いましょう。」と承諾の意思表示をするのが承諾です。店頭にスタッフ募集の貼り紙をするのは「申込の誘因」という概念です。
隔地者間の契約の成立
このように契約は申込と承諾に分析されますが、我々が日常行う契約というのは、スーパーでも買い物のように、申込と承諾の間に時間的、場所的接着性があるよね。こういうのを現実売買といいます。また、電話で交渉して売買契約を締結する場合もこれにあたるよね。
でも、民法が出来たのは明治時代。その時は電話なんかなかった。だから、遠く離れた人と契約を結ぶには手紙を使っていたわけだ。そこで、「隔地者間の契約」という概念が必要になる。まぁ、今でも国際取引は手紙やテレックスでなされるし、国内取引でも電話じゃなくて電子メールで契約締結に向けて交渉したりする場合にこの概念は用いることが出来るけどね。…これに関しては申込は相手方に到達しないと効力を生ぜず（到達主義、97条1項）、承諾はそれを発した時から効力が生じるという発信主義が採用されている（526条1項）。その理由は…、だって例えばうどんの製麺所が製粉所に「饂飩粉を100kg売ってくれ。」という手紙を普通郵便で出した場合、それが相手方に届いてからが裁判になった場合、問題なのであって、申込の手紙をポストに投函しただけではなんらの法的効果も生じない。だから、申込は到達主義。逆を言えば、相手方に申込が届くであろうまでは、速達郵便かなんかで、その申込を撤回することができるわけ。ここ大事。一方、製粉所は申込の手紙を受取ったら、承諾の手紙を出して即、饂飩粉100kgの荷造りにかかるでしょ。即ち、承諾の手紙を出した時点でその契約が成立してるわけ。だから、承諾は発信主義。ちょっと難しいかなぁ。「あ〜、そろそろ承諾の手紙が着いたころだぎゃぁ〜。荷造りして送るべぇ〜。」なんて悠長な法制度だったら、資本主義は発展しないでしょ。資本主義は迅速、スピーディというのが基本やからね。
意思表示を解剖する
先程までは契約は申込という意思表示と、承諾の意思表示から成っていると言いましたが、じゃあ、意思表示って何でしょうか。受験上は通説見解にしたがって説明するね。
例えば、中古車の買主が車を購入する際、「ええなぁ〜、幻の名車、セリカダブルエックス※3がこんなええ状態でこの値段とは…。この車はプレミアムが付いてて、FR車のマニアには高く売れるから、ここで買って転売しようかぁ。」と考えるのが動機。そんで「よし、100万円で買おう。」と考えるのが効果意思。「じゃ、100万円で買うぞ、ってディーラーに言おう。」って思うのが表示意思。そんで実際に「100万円で売ってくれ!!」って言うのが表示行為。
まぁ、意思表示って動機、効果意思、表示意思、表示行為に解剖できます。ここは95条の錯誤や96条の詐欺、強迫を理解する上で非常に重要なポイントです。
例ぇば、偉い学者先生は、錯誤とは表示（表示行為のこと）と内心（効果意思、表示意思のこと）の無意識的不一致である旨述べています※4。また、詐欺や強迫というのは、本来ならば、自由な意思によって表示行為がなされるのに、外部から不当な干渉が加えられて歪んだ表示行為がなされることをいいます。ちなみにこの歪んだ意思表示のことを教科書では「瑕疵ある意思表示」って言っているので押ぇておいてね。
※1 内田貴『民法�義軋Аκ�権総論』東京大学出版会18頁
※2 Ｍ元首相のことです。
※3 現在のセリカの前身。15年くらい前の車。僕は大学生の時、ボンボンの友達に貰って乗っていました。自分で色塗って。自分で言うのも何やけど、フロントがメッチャ長くて、自称コルベットって感じでした。街中を走ってたら、「あら、あんなアメ車見たことある？」「いや、あれはセリカダブルエックスだ!!伝説の名車だよ。まだ、走ってるんだねぇ〜。すっげ〜!!」という会話がいたることろで交わされていました。（ホンマか？）しかし96年2月某日首都高速湾岸線を時速140kmで飛ばしていると整備不良のためいきなりドリフト!!側壁に激突して大破。奇跡的に大した怪我はしなかったけれど、愛車を一瞬で失うのってかなりへこむんだよね。みんなもインチキ車検はアカンよ。ちなみに車をくれた友達は事故ってへこんでいる僕を見て、また車をくれたんです。まぁ奇特な奴でしょ。
※4 内田前掲58頁